「ネジをねじる」15分で作る即興小説(ショートショート)

一枚の鉄板のネジを締める。
ただそれだけ。
それだけの仕事を8時間続ける。

第82番隊は「施設」の点検をして緩んでいるネジを締める。
給料はない。
生活は保証されている。

部屋、それに冷暖房器具とラジオ。毎日毎日仕事中はネジを締めながら第6番隊のラジオの話題で持ちきりだ。最高の娯楽にして唯一の娯楽だ。

食事はサプリメントと、よくわからない文字が書かれた水色のカリカリした板を食べている。不思議なことに一枚の板なのに折って食べると甘かったりしょっぱかったりして飽きることはない。

そんな訳あるか。飽き飽きしている。退屈だ。水色のカリカリしたヤツに飽きているのではない。
生かされて駒にされているこのループがつまらなさすぎるのだ。
ちなみに水色のカリカリしたヤツに飽きたことはなかった。アレは美味しいものだ。訂正しておく。

ある日、寮と現場の間にある更衣室で事件が起きた。寮で履くべき靴が下駄箱から消えたのだ。誰ひとりとして現場で使っている靴で寮に戻ろうとはしなかった。規約違反だからである。衛生問題などがあるのだろう。ペナルティは「消化」である。この単語の説明がない以上、恐ろしくて私達は何もできなかった。

さてどうしたものか、ネジはもう締め終わった。ここで私は思いついた。普段と違うことをしよう。どうせ暇なんだ。
私達、第82番隊は締めたネジをすべて外した。すべてだ。丁寧に一つずつ。ゆっくりと、丁寧に外した。
最後の一つがどうしても外せなかった。一人では。全員で大きい金具で無理やり外した。
鉄板が外れたそうしたら現れたのだ。4×4の鉄板が。構成はさっきの鉄板をそのまま小さくしただけで、細かくネジが締められている。

スピーカーから荒い音でアナウンスが流れた
「第82番隊、規約違反。ペナルティ「消化」実行せよ」
あぁ、今度は鉄板のネジを緩めて「消化」しなければいけないんだ。しかも16倍の仕事量だ。

ネジの螺旋を登りきって見えた先はただの天井だった。

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あずまさん

身売り顔出し担当偏差値6億.com
無職で自分を切り売りしているおじさん。 女装したりタンバリンを叩いたりしながら生きています。 ワインで頭を洗えば、僕のファンができた時にファンの皆様が飲シャンしやすいと思うのでずっとワインで頭を洗っています。
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